鏡像 【改訂】/リリー
 
ヒラメの様な顔だと話す人もいた。
  私は、ある事があって以来、東野さんとは距離を置きよそよそしく接する
 様になっていたのだ。

  あれは或る日の午後だった。旧館寮母室で措置台帳の日誌を書き終え
 て、廊下へ出ると寮母室から私の姿も見えなくなる辺りで、突然四十代の先
 輩から片腕を掴まれる。
 「あんた、東野さんと二人やったんか? さっきまで」
 尋ねてくる目の色は、何か嫌な雰囲気を漂わせる。
 「はい。そうですけど」
 「東野さんが預かり金帳簿つけてる時に、寮母室入ったらアカンのやっ
 て!」
 意識と反して声のボリュームだけを抑え込む、その激しい口調。
 「へ? 
[次のページ]
戻る   Point(6)