失くした頁ほど読み返したくなるものだから/ホロウ・シカエルボク
 
―あるいは欲望、それが誰のためのものなのかなんてあまり突き詰めない方が身の為だ、人殺しに慣れるかもしれない希望を持っておくことは悪いことなんかじゃないさ、それもある意味で覚悟ではあるだろう…もちろんそれは幾つもの意思やビジョンを、正しく変換して飲み込める回路を保持しているかどうかにもよるけれどね、とかくこの世は安直に安直にと、取るに足らない解釈を積み上げたがるものだから―そしてとうとう雨は降り始めた、タクシーを捕まえるかい?それぐらいの金は財布の中にある、でもそんな気分じゃなかった、引き込んだ風邪がようやく治りかけているけど、傘も買わずに家に帰ることに決めた、どうせここで意地になってもどこかでしわ寄せが来るものさ、だからしわ寄せを先に済ませておくんだ、それもバランスのとり方のひとつではあるはずさ、家に帰ったら温かい珈琲を飲もう、腹を壊している猫に胃薬を飲ませて、音楽を聴きながらサローヤンの小説を読もう、俺だって嘘に違いない、でもそんな俺だって時折は、真実のように確かに見える瞬間があるものなんだ。


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