鏡像 【改訂】/リリー
 
 
  序章 「橋」


  瀬田川に架かる鉄橋に軋む音。光の帯は今を、過ぎた。
  友人の引っ越し祝いで新居を訪問した帰り、瀬田唐橋の欄干から眺める
 そこに拡がるものは、時の流れすら呑み込んでしまいそうな濃藍の川面。
 波は無く、岸の夜景も鏡像かも知れない。この先に、湖はあるのか?

  数日前に友人からの電話で聞いた話は、苦い余韻を私の胸に留めていた。
 「この間……面会に行ったら、私のこと分からんかったわ。一緒に暮らして
 た時は、そんな事なかったのに。口も達者やったのに! 施設へ入るとな
 ……どうしても」
 JRの駅前で家賃七万円のマンションを売却し、二人暮ら
[次のページ]
戻る   Point(5)