百の夜/岡部淳太郎
 
しまった以上
けして無視することの出来ない声
けして戻ることの出来ない君
かつての 健康な君
百の夜に
百の魔の眷属
むき出しの夜を君は
歩く

生きる
夜を
百の夜を
君は生きる
すべるものが暗躍し
人の血のつながりを切断する魔物が跳梁する
致死量の夜を
君は生きる
地下水がゆっくりと目醒め
月が紅蓮の炎を吐き出す
こんな夜にこそ 柳の木の箴言を聴け
現世に鳴り響け
百の夜の鐘
君は夜をいくつまで数えたか
夜は終らない
百の夜は
今日も明日もそこにただ在る
君に訊きたいことがある
死んでみて
いったい何が変ったのか?



連作「夜、幽霊がすべっていった……」

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