金魚すくい/たもつ
 


 部屋の明かりが消えた。キッチンも、廊下も、
トイレも。カーテン越しに差し込む街灯や近所の
明かり。わたしの家だけが何事もなかったかのよ
うに、暗闇の中、どこまでも透きとおって見えた。

 山下さんに誘われてお通夜に行った。「あなた
もお世話になったじゃない。」山下さんはそう言
うのだけれど、遺影を見ても、声や口癖さえ思い
出せない。ご焼香を済ませると、山下さんは他の
グループの人たちと談笑しながら車に乗ってどこ
かに行ってしまった。あの笑顔に憧れていたのだ、
初めて会った時から、ずっと。

 わたしは帰り道、一人喫茶店に寄って簡単な食
事をとった。ブラックフォ
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