あなたのかたまり/パンジーの切先(ハツ)
丸の内駅のホームで、あなたを見かけたとき、BOSEのヘッドホンから聞こえていた音楽より、脈がバクバク鳴る音のほうがはるかに大きくて、動けなくなった。まるで、両方の靴が触れている地面から、たった今足が二本生えたかのように震えて、動くことができなくなった。生まれた場所を好む両足は、(気温の低く、暗い湿気た場所を好む植物が、沖縄の暖かく乾いた気候では上手く育てないのと同じことだと言い張るように、)頑として動かない。ヘッドホンはエンドレスでフジコ・ヘミングが演奏する『革命』を流し続けていて、その重苦しさに気が狂いそうになって、右手でヘッドホンを耳からずらした。丸の内駅にいる人々は皆、足早にオフィスや行くべ
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