いつでも枕がそこにあるとは限らない/ホロウ・シカエルボク
のね」御尤も、俺たちはライブハウスを出た、女はひらひらと手を振って俺とは反対の方向へ駆けて行った、興奮すると気絶する体質、それなのにロックのライブにやって来る、余程の馬鹿なのかそれとも勇者か、もう少し詳しく聞きたい気もしたがもう女の姿は見えなかった、そんな時に彼女が見る夢はどんなものだろう、気を失っている時の女の顔はスイッチを切られた機械みたいだった、俺はその体温すら疑ってしまったくらいだ―帰り道はほんの少しの雨に濡れていた、次の雨粒が落ちてくる前に乾いてしまう位の雨だった、仰向けに倒れた神様が蘇るのはいつのことだろうか、それとも神なんてものはいつだって、見栄っ張りの大ぼら吹きなのか、今日プレイされたナンバーのことはひとつも思い出せなかった、記憶にあるのはただ、無音の画面の中で政治や若者について喋っている、今はこの世界に居ないジョー・ストラマ―の目つきくらいのものだったのだ、帰ったらシャワーを浴びて、コーヒーを飲んで、古いレコードを聴きながら眠ろう、人生は巡る、失われたものたちだって、少し形を変えてまたこの手に戻って来ることもあるだろう。
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