のらねこ物語 其の二十八「赤提灯」/リリー
イワシは黙って頷いた
深川の のらねこの間で路地を走り抜けるイワシの姿は
異名を取る程サマになっていたのである
「一杯よ、やってかねえか?おいらが奢るぜ。おいオヤジぃ、
二本浸けてやってくれ!」
ハチが犬の五郎蔵と世間話を始めるとトラはおでん突っつきながら
盃交わすイワシへ 清吉とおりんの事が口を衝いて出た
自分とタマとの別れと重なってきて
このまま離れて欲しくないのだと話す
盃の酒をクイッと飲み干すイワシ
「なるようにしかならねえさ。お前の気持ちは分かるけどよ。」
夜風が一瞬だけ空き地の紙屑を巻き上げる
空には月が、照りもせず
しづかに浮かぶだけであった
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