証券死場/菊西 夕座
 
った
その顔に爛々とみなぎっている数列はまぶしくて、老人はおもわず面をそむけた
かつては自分が天井しらずで、いまでは爪先に蟄居した砂粒とみずからを悟った
ぽっとでの自由はスリッパをひっつかむと、逆さまにして足に障る砂をにがした
「おじいさん、これであなたもすっかり、自由の身というもんです。」
それからあわただしく看護師がストレッチャーをひいて、たおれたバケツを救いにきた
少年はそのストレッチャーによこたわると、こぼれた砂流でゼロの彼方へ運ばれていった
証券取引所では高値をつけた安楽死が乱高下して、まもなく脈が巡礼の兆しをしめした
いぜんとして昔日の足音は遠かったが、臨終の顔にはぽっとでの皺がまぎれこんでいた
落陽はほぐされ、黄銀にそめた羽衣で身をつつみ、居並ぶ窓列の反射(わがみ)にみとれていた


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