証券死場/菊西 夕座
 
ぽっとでの自由は、老いたる自由にむかってスリッパでもつっかけるように言った
「おじいさん、あなたはすっかり、不自由なご様子じゃありませんか?」
巨匠とよばれて久しい年配の自由は、寝椅子のなかで遠くなった耳をうたがった
なぜわしが、こんなこわっぱにいきなりバケツをひっくりかえされたのか
だしぬけの自由は、こぼれた言葉もそのままに、老人の傍らをすりぬけていった
「待たんか青二才の鼻ちょうちんよ、いまなんてぶっきらぼうに言ってくれたかな」
青二才は赤信号でもないが、立ち止まって素直にさっきのスリッパをつっかけなおした
遺体安置所の証券取引をおえた巨匠は、やおら身をおこして若者をふりかえった
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