のらねこ物語 其の二十五「如月の雪」/リリー
 
これで。失礼いたします。」
 「えっ?」

 頭を下げ立ち上がった甚五郎を、茫然として見上げる主人へ
 自分は、近江屋さんの掛け軸の金魚が気に入ったのでございますよ
 それだけを言うと 笑って彼は部屋を出たのであった

 厨では昼食の準備にたらいで野菜を洗っている おゆう
 窓から裏庭覗いて
 「あら、晴れてたのにね、雪だわ。」
 かまどに火吹き竹で火を熾すおりんは その声だけ聞いて
 何も答えない

 薄く広がった雪雲にお天道様が隠れて 外は妙に肌寒かった
 新しく開く店の準備も整い 二ヶ月後には清吉も
 現在のお屋敷の住み込み部屋から異動して行くのであった

 
 
 

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