なまえ (overwriting)/中田満帆
 
疵痕
 あとはほんの失敗、ささやかな失態
 なにも失ってなどいないふりをつづける憐れな男
 3階の室まで連れ戻してくれる伝令をいまも待っている
 はじめっからまちがっていた人生の意味、そして解釈
 憎しみだけがほんとうであとはあざけりだけだとおもっていたころ
 あれからもうひとまわりしていまだわたしはわたしを赦せない
 ふるい帽子に晩年と渾名して、貌を隠して過ごしたい
 なにもかも忘れて失踪者として死にたい
 ここまでやって来た虚無の所業、
 表現も生活もまともじゃなかったんだ
 行き倒れた道を、生き直したい
 そうおもうのもつかのま、
 地下鉄が到着して、
 そいつに
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