還らざる日々/レタス
グラスを傾けながら
あの頃を想う
何も持っていなくて
三本立てのリバイバル映画を観ては
涙ぐみ
午前零時閉店のクラッシック喫茶が終わるまで
バッハとチャイコフスキーをリクエスト
冷たい肩を抱きしめる
終電の箱の中は酒臭く
みな頭(こうべ)を垂れて目蓋を閉じていた
アパートの四畳半には電気ストーブ
なかなか暖まらなくて
インスタントラーメンを啜っては
ウオッカを呷(あお)り
ラジオの深夜放送を聞きながら眠り就く
さてと
今夜もグラスを傾けよう
明日を迎えるために
戻る 編 削 Point(8)