苦虫/トビラ
名前を削除したから
夏が終わったんだね
君に借りていた記憶も返せないまま
静かな夜中の改札口
後悔を嘔吐する
虫たちだけに聞かせた
僕の呪詛は
たぶん『好き』って感情から生まれた
抑えてもあふれ現れた
星の瞬きが欲しいと
わがままを願うには
僕は
いまさら夏に手を伸ばしても
もう永遠の中に埋葬されたのにね
また遅刻しちゃったな
アプリをアンインストールするほど
簡単にはいかないみたいだ
『黄色の中で破裂した珊瑚礁は
竜宮城につづいているんだよ』だっけ?
うまいこと言うね
僕のバカさが際立つくらいに
君の唇の紅さを
思い出す
ふいに上がる君の口角が喜びだったよ
間抜けな僕を地獄から這い上がらせるくらい
暖かな陽だまりだった
君のいない秋の入り口で
手帳を開く
借りていた記憶を書き出して
電車に乗り込む
一つ一つに丁寧に赤く丸をつけ
弱虫と、書き足して
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