夜/形代 律
きみに逢うために
踏んだ路を歩きなおすのは
唯是西行
不左遷
と かの詩神ほどの気概や嘆きを抱いていた訳でも
まして花の匂いに誘われたからでも
ない
梅が枝を
敵意のすがたで空へと手向ける季節
太陽は悠長な時を
かけて海と交わる
赤を青が
抱擁する それを
黄昏 と
儚む人々より
すこしだけ永い逢瀬と離別の
残光のなかで生きるひとは
赦されたように
いつも足がおそい
眠たい光速の歩みで
疲れ果てる そのとき
ようやく触れる瑞々しさ
それは
音もなく
光もないが
この地でもっとも宇宙に似ている
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