燃える!/田中宏輔
 
いて椅子にすわる。)

夫──うわっ。かっ、火事だ!

(と言って叫ぶ声も、女たちの耳にはまったく聞こえ
 なかった。火の勢いは信じられないほどに強烈で、
 男は燃える椅子の上でたちまち灰となっていった。)

娘──きょうのおかずは何。

妻──あなたの大好物ばかりよ。

(微笑みあう母と娘。さりげなく沸騰する、やかん。
 ふたりは動かず、舞台の上の照明が溶暗してゆく。)





戻る   Point(12)