肌で生きるエウロペ/菊西 夕座
 
1、

たおれたままの若い病身に 全身全霊をかたむけて
詩神の秒針がかさなるとき もはや時刻は総毛だつ
純白の牡牛に身をかえて 四つ足のステップで誘惑し
美貌のエウロペをさらっていった 伝説が病床によみがえる

エウロペは落雷におそわれた 春の若枝(わかえ)にそっくりで
まなこを隅におよがせたまま 口角に泡をためて折れまがる
花もつけずに反りかえる細腕 その弓にそって詩神は美をすべらせ
奔放なつる草を矢型にゆわえては ふるえる枝に恍惚をうたわせる

縦社会で帆が垂直にのびても めざすべきは落陽の水平線
はてしない夜のかなたにしずむ 火炎の光芒をおいもとめ
おどり立つ波に
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