糺の森。/田中宏輔
ぼくが帰るとき
いつも停留所ひとつ抜かして
送ってくれたね。
バスがくるまで
ずっとベンチに腰かけて
ぼくたち、ふたりでいたね。
ぼくの手のなかの
きみの手のぬくもりを
いまでも
ぼくは思い出すことができる。
いつか
近所の神社で
月が雲に隠れるよりはやく
ぼくたち、月から隠れたよね。
形は変わっても
あの日の月は
空に残ったままなのに
あの日のぼくらは
いまはもう
隠れることもなく
現われることもなく
どこにもいない。
注記 糺(ただす)の森と読みます。下鴨にある神社のそばの森です。
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