水の行方/ホロウ・シカエルボク
 
映画を観てそれぞれに過剰とも言えるほどの感想を考え、ノートに書きつけた。そうしているうちに私は書くことに喜びを見出し、詩とも散文とも言えない文章をたくさん書くようになった。インターネットでそれを発表してみると、幾人か感想をくれる人も出てきた。それ以外はなんの変化も無い。生活は継続される。でも短いながらも忙しい仕事をこなし、部屋の鍵を開け、テーブルに置かれている一冊のノートを見ると私の心は昂る。私は彼女に話しかける。いつかあなたのことを書くからねと。彼女はなにも言わない。呆れられたりしてなければいいけれど。顔と手を洗い、メイクを落とし、髪を纏め、コーヒーを入れて、テーブルの前に座り、ノートを開く。そこにどんな意味があってもなくても構わない。私はいま初めて、自分が必要と思えるものを手に入れたのだ。


                          【了】

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