12月のカーテンコール/平井容子
 
1.憎しみ

北風だ
なつかしい火事の気配だ

黒いタートルネックから青白い首筋がのぞいて
発情した外套の群れに咬まれた

くだらなくもただしい鳥獣戯画
ただし朝にはいつものコーヒーを

「出社時刻となりました。ただちにトーストを犠牲にして立ち上がる万感の戦士の出で立ちでそこに直れ。」

そのとき、そのあさ、いつも、なんどきも
(ぼくら)マスタードを尾に塗られた毛のない犬のように
走っていくしかないのだった



2.産湯の記憶

キャンドルを灯し
くぐったダブル・ドアズ

肌は朽ち
歯は抜け
やがておわりがきて

もう泳げないというときも
[次のページ]
戻る   Point(5)