音楽と精霊たち?/朧月夜
曲に戻ってしまう。
「トッカータとフーガ」の次には、「幻想曲とフーガ」を弾いた。これもなんとなく違う。そして、「前奏曲とフーガ」。意外なことに、この旋律は今の葉子の気持ちに不思議に合致していた。気づまりな仕事、気づまりな街。バッハは教会に所属して作曲活動をしていたが、中には気乗りのしない仕事もあったのだろう。
(『前奏曲とフーガ』はどうなのだろう?)
葉子は考える。その時、なぜか家じゅうの物たちが頷いたような気がした。
(えっ?)
と、葉子は思う。
(物が物を言うはずがない)
葉子は周囲を見回す。「今のあれは何だったのだろう?」と。
「前奏曲と
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