音楽と精霊たち?/朧月夜
 
うか。その名付けようのない感覚に、時として葉子はとまどってしまうことがある。箪笥や本、人形たちが命を持っているのだろうか……そんな風にオカルティックな考え方もしてみた。しかし、そうした安易な結論は葉子を満足させない。「家」は、葉子を拒絶しているのではなかったから。

 仕事は簡単には見つからなかった。まず第一に、S市には芸術系の大学や音楽学校がない。仕事を求めるのであれば、中学校や小学校の講師、あるいは音楽教室の講師などが妥当だったろう。それにしても、音楽の講師という求人は少なく、葉子はS市の環状線に乗ったまま、一日中ぼんやりと仕事のことを考え続けていたこともある。

 当面は貯金と失業保険だけでなんとかなっても、いつまでも無職というわけにはいかなかった。
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