気泡/たもつ
中華料理を食べそこねた兄が
急行列車で帰ってくる
僕はまだプールの水底で
習字の練習をしている
兄は僕より背が高く
顔も様子も似てはいないけれど
よく双子と間違われた
習字のはらいが得意で
丁寧に根気よく教えてくれた
何度も水の中で笑った
兄はいつも淡い色をしていた
加熱した牛肉が好きな人だった
初めて降る雪を見ながら
これがぜんぶ牛肉だったらな
そんなふうに呟くのを聞いた
雪の方が溶けるから綺麗だよ
僕の言葉に兄は恥ずかしそうに笑った
本当は同じように呟いている人が
たくさんいるのかもしれない
そう思うと
何も知らない僕の方こそ恥ずかしくて
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