冬の裸歩き/ただのみきや
いて
忘却の足もとではいつも唖の鈴が
さみしい光を放っている
風に舞う一枚の便せん
雪空に蝶を求め
冷気に色を失いながら
遠く流されてゆく
凍ったアスファルトを厚い靴底が無造作につかみ
つかみそこねた刹那
胡桃のように何かが割れた
思い出した
わたしは枯葉のように軽い男だった
湖に落ちて
全ての水を吸って重くなったのだ
わたしの歩みは地下水となり
わたしの思考は水蒸気となり霧散した
氷柱の中でまどろむ心臓
青い花びらを詰まらせた心臓
長い長い鉄の鎖が体の中を列車の音で走り回る
痛みはないが肉が挽かれる嫌な感触だけがあった
焼けた鉄と機械油のに
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