夜が騙している/ホロウ・シカエルボク
 

ある日、部屋の灯りをつけないことに決めた、中心部に近い住宅地にあるこのハイツでは、街路の灯りだけで充分過ごせることに気付いたのだ、この街には暗闇が無い、俺はずっと山の近くで育った、そのあたりじゃ陽が落ちてしまうと完全な暗闇と静寂に包まれてしまう、だから、小さな灯りを点けておかないと眠れなかった、暗過ぎるし、静か過ぎるのだ…半年ほどまるで眠れない日々が続いたとき、灯りをすべて消して、あの暗闇の中でずっとなにかを考えていたことを覚えている、でも覚えているのは、なにかを考えていたということだけで、具体的にどんなことを考えていたのかということについてはまるで思い出せない、きっと、そのときだけ飢えていた
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