のらねこのブルーズ/竜門勇気
水は冷たくて
カルキのにおいがしておいしかった
必要なものを買いに来た
それを手にして帰る
そんな気分だった
今までどこにいたの?
どこにでも
夏によく似ていた
電柱に貼られた写真にも似ている
のらねこは顔をなめて
僕を思い出してくれよ
ときどきでいいんだ
探してるやつがいたら探さないでくれって
泣いてるやつがいたらほらそこにいるよって
そういってくれ
夕暮れに名前を呼ばれたら
僕だって気持ちを変えるかもしれないって
そう伝えてくれよ
のらねこに水をもらった
ひどく暑い日だったが
真冬のことだったかもしれない
お互いに名前を伝え合って別れたが
結構前の話だったんで
なんだかおぼろげにしか思い出せない
あの水の温度だけが口の中に残っていて
温かいものや冷たいものを口に含むとき
なんどものらねこを思い出す
なんどものらねこを思い出す
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