無題/朧月夜
 
ーヒーを飲めない。煙草も不味い味だ。街へ出ていきたいが、街は毒だ。金銭と引き換えに、他愛もないからいくらかの物を手に入れる。わたしの部屋は乱雑で、衣服を入れる箪笥さえない。わずかばかりの衣服を、段ボールに入れている。惨め、という感慨も湧くではない。遠い憧れの水平線に、希望という楽観があれば良いのだ。波止場のコンクリートの岸壁に、ただ足を垂らしていれば良い。雲は遠く、雨も降りしきっている。わたしは濡れる。悲しみや寂しさという寂寞に。後から顧みて、人生は誠に良いものだったと思う。そこでは、不幸すらが至福だ。わたしは今日も鬱屈とした日々を過ごす。耐えているのだ。他人の忍耐は、わたしから見ればほど遠い。身近にいる家族ですら、本当のことは分からない。時計はただ、時を刻んでいる。そして、死という安楽を待ち望み、生を謳歌している。さすれば、わたしは幸福なのか? 終わりのない。尽きない自問。腕時計の秒針の音が、ただわたしという幽霊を慰めている。
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