稜線/妻咲邦香
 
私もいつかそうなれるのかと
訝しみながらも幌馬車は進む

景色は私の宝です
それしか私は持ち得ません
出会った現実を不穏な言葉で飾らぬためにも
私はあなたを忘れます

幌馬車は走る
懐かしい荒野の上を
走る、はしる
既に歩ける赤子を乗せて
鳶のからかう声にもめげず
屈した神をも赦しながら
それでも走る
車輪は既に外れかけ
花の祝福もじきに終わる

私が見えなくなるまで待つ必要はありませんし
私もまたそうしないと決めております

苦い薬草の、思いの外甘味であったことなど
思い出しながらも幌馬車は進む
稜線を越える翼が今度は向きを変えて

はじめまして
お目にかかれて光栄です
本日は大変お日柄も良く
どちらまでお出かけですか?







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