彷徨いの計器/ホロウ・シカエルボク
 
かい、確信なんて本当は必要ないんだ、そんなもの生きていくことにまるで関係の無いことだ、それは瞬間のリアルにフィルターをかけてしまう、そして一度そうしてしまったら最後、それは二度と外すことが出来なくなってしまう、選択肢は選んでしまえばひとつだ、選ばなければ無数に存在し続ける、安易な人生の模倣に終始するような愚行だけはおかしてはならない、答えを出すのはのちの自分なのだ、数秒後、数分後、数時間後、数日後…もしかしたら数年後かもしれない、事柄によっては、死の間際になって初めて理解出来るのかもしれない、再演不可能な、高速で展開される紙芝居を、どれだけ記憶に留められるか、もっとも簡単に語るとするならば人生とはそういうものだ、手のひらの傷はもうすっかり消えてしまって跡形もない、数分後にはあの瞬間に覚えた痛みの記憶もなくなってしまうだろう、コーヒーメーカーはコンセントを抜かれて沈黙している、サーバーに残った蒸気の粒が、走り終えたランナーの汗を連想させる、俺は服を着替え、部屋の電気を消す、これから出かけるけれど、特にこれといって目的があるわけでもない。


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