余韻/ただのみきや
 
山の錦を見上げれば
まなこに落ちる
雪虫は
苦い文字のように
熱く 湧きあがることもなく
違和だけを残し
すすぐ目薬の
青い器に 光が泳ぐ
空の肺を満たす羽虫
大量発生
いのちの数だけ羽化する死


わたしは見た
色濃い秋の荒ぶる影を
わたしは影を追いかけた
追いかけて 追いかけて 
あの場所
かつてわたしを開けない夜にとじこめていたが
いまは屋根もなく絶えず光が差し込んで
風が自由に行き来する
瓦礫と化したあの廃屋へ追い込んだのだ
透かし見ることもできない漆黒
壁に追い詰められてふくらんだ影は
声もなく叫び
牙も爪も持たずに暴れている
一本の鉄
[次のページ]
戻る   Point(2)