落とし穴/たもつ
 
休日には温泉旅行にも行く
部屋に入ろうとすると
そこお気をつけください
若女将が言った
それから続けて
落とし穴ですのよ、と笑った


毎日、花壇の花に
水をあげているうちに
話し方を忘れてしまった
だから筆談で
水をあげるようになった
その一方で花たちは
いつもありがとう、などと
話し方を覚えていった
花のように綺麗に咲かない私は
そのうち文字も忘れて
筆談すらできなくなるのかもしれない
見上げればどこまでも晴れ渡っていて
空とそうでないものの境界線は
あやふやになっていく
花壇に隣接する敷地を歩いていると
その先、危ないです
花たちが言った
落とし穴でもあるのだろうな
ぼんやりとそう思いながら
一歩を踏み出す





(初出 R5.10.21 日本WEB詩人会)

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