跫音 (旧作)/石村
星は輝き、
夜霧は流れる。
美(うる)はしの、祭の山車(だし)よ、おさらばさらば
今日は人生に文句が無い。
静かな夜の公園で、
独りベンチを暖める。
小さな犬が寄つて来る。
それで別段文句も無い。
美はしの、祭の山車を何処(いづこ)で見たか、
そんなことわざわざ想ひ出すまでも無いだらう……
星は輝き、
夜霧は流れる。
ベンチに銀杏の葉は降り、
それは、何か和やかな神秘のやうに降り、
あたり一面、時雨(しぐれ)るやうに讃美歌はきこえ、
身に染みて、秋の夜は更ける……
美はしの、祭の山車よ、おさらばさらば
僕の心も、いつのまにやら歳を取り、
歴史的思考はどうにも苦い――要するに
僕は、何時(いつ)も自分の跫(あし)音をきいてゐたばかりだ。
祭の山車に連れられて
全ては閃き行き過ぎる。
独りベンチに腰掛けて
今日も取り敢へず文句は無い。
小さな犬は丸くなつて睡つた。
銀杏の葉は降り
身に染みて 秋の夜は更ける……
(一九九一年十月二十七日)
戻る 編 削 Point(2)