試着室/たもつ
 


試着をし続けている間に
ぼくらはすっかり
年を取ってしまった
兄は定年退職を迎え
父と腹違いの叔父は
ベッドから起き上がれなくなった
会津に帰ると言って聞かないのよ
叔母が愚痴をこぼしていく

店舗は閉店して空地だけが残った
それでも毎日やってくる明日の
服装が決まらないから
ぼくらは試着をし続けるしかなかった
これどう
可愛いよ
そればっかり
きみの好みは熟知しているから
的は外さない

やがてぼくらの身体は無くなり
そんな他愛もない定型のやり取りだけが
いつまでも繰り返される
試着室のカーテンが風に揺れて
世界はそこで終わっている





(初出 R5.10.11 日本WEB詩人会)

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