連作詩集「自由落下」冒頭十篇/岡部淳太郎
予告するように
喚き立てる者がいて
人々は
なにかが落ちてくるのを
予感のように じっと
待ちかまえていて
7
落ちてゆくことは
浮き上がることに似ていると
誰かが言った
いま いくつもの枯葉が
落ちながら
中空で止まって
浮き上がるように
漂っている
その様子はまるで
一枚の絵のように
8
生まれ落ちてしまったと
どこかで赤子が泣いている
こんな世の中に
どうして落ちてしまったのかと
いいんだ
そのままでいい
落ちてしまったら
もうその先はないから
生まれ落ちたのこの世で
這いずるように生きていけ
それを覚えるまでは
ひたすらに泣け
9
落ちることは
すべてのはじまり
記憶のなかに
なにかが落ちて来て
それから私たちは
生の一歩を歩みはじめる
飛び立つためには
まずは落ちなければ
10
落ちた後の枯葉を
拾い集める人がいる
落ちた後にこそ
傾けられる思いがある
(二〇一七年二月〜八月)
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