連作詩集「自由落下」冒頭十篇/岡部淳太郎
 
予告するように
喚き立てる者がいて

人々は
なにかが落ちてくるのを
予感のように じっと
待ちかまえていて




落ちてゆくことは
浮き上がることに似ていると
誰かが言った

いま いくつもの枯葉が
落ちながら
中空で止まって
浮き上がるように
漂っている

その様子はまるで
一枚の絵のように




生まれ落ちてしまったと
どこかで赤子が泣いている
こんな世の中に
どうして落ちてしまったのかと

いいんだ
そのままでいい
落ちてしまったら
もうその先はないから
生まれ落ちたのこの世で
這いずるように生きていけ

それを覚えるまでは
ひたすらに泣け




落ちることは
すべてのはじまり

記憶のなかに
なにかが落ちて来て
それから私たちは
生の一歩を歩みはじめる

飛び立つためには
まずは落ちなければ


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落ちた後の枯葉を
拾い集める人がいる

落ちた後にこそ
傾けられる思いがある



(二〇一七年二月〜八月)
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