夢魔の膝枕/ただのみきや
 
ずっと夜に引っかかっていたい
蜘蛛の巣の落ち葉みたいに
まさぐる闇に身をまかせ
ふるえながら黙ったまま
水中に咲く花のよう
静かに息を
ひらいてとじて
やがて夜光虫が模様を描き出し
嘯くもくろみの貝も口を割る
目のない魚や翼のある女たちが
昼の黄ばんだ書置きを
紙魚のように食らい散り散りにする
見えない地平線の向こう
星屑はさまよいながら燃え尽きる
寝返りの度
世界は失われる
ずっと夜に引っかかっていたい
獏のぬいぐるみを抱いて夢魔の膝枕
誰も夢とは気づかない日々
朝が来たら雄鶏を絞め殺し
のっぺらぼうの無精卵を割る
黒い塊を焼いて焼いて焼いて
出口のない世界に出かけていく


                 (2023年10月8日)








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