転調 (旧作)/石村
 

花がいつせいに咲いたので

風もなかなかお洒落なもので

埃つぽい老婆や街の子たちも

きやすく四月のあどけない挨拶にしたしむのだらう

さはやかなハ調の音階がきこえてくると

朝の陽射しはとてもあかるいので

むかしのひとのかなしみをかなしんでゐる

なにごともなくやさしいこの一日が過ぎたら

あたりにすずしくはりつめた光とともに

ちいさくあたらしいみどりになつてみたいのだ


      (一九九一年四月十二日)



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