裸で君の隣りにいると/ふたば
君が眠っているうちに
パンが焼きあがったみたいです
お母さんはお父さんを呼び
小さな女の子はテーブルを手早く片付けて
髪を撫でてもらいました
君が眠っているうちに
船は港に帰ってきました
汽笛がそれを教えたとき
おじいさんは手紙を読み終えました
古い机に古い椅子、古いことば、古い手紙
君が眠っているうちに
カーニバルは終わってしまいました
みんな家へと帰っていきます
靴屋さんは松葉杖をついて
理容師さんはかぶっていた白い布をおろして
君が眠っているうちに
列車は花の駅を出て行きます
みぎにひだりに揺られるうちに
荷台から野菜を落っことして
霧の国境を越えました
旅人は列車を降りたあと
空や海や草や道にたくさん名前を付け始める
子どもたちが旗を作りはじめた
なんて名前をつけたんだろう
君がきっと行くことのない
はるか遠い国にやがて雨が降る
裸で君の隣りにいると
雨の音が聞こえるようです
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