陽の埋葬/田中宏輔
真夜中、夜に目が覚めた。
水の滴り落ちる音がしている。
入り口近くの洗面台からだ。
足をおろして、スリッパをひっかけた。
亜麻色の弱い光のなか、
わたしの目は
(鏡に映った)わたしの目に怯えた。
いくら力を入れて締めても(しめ、ても)
滴り落ちる水音はやまなかった。
ドア・ノブに手をかけて廻してみた。
扉が開いた。
いつもなら、ちゃんと鍵がかかっているのに……
廊下の方は、さらに暗かった。
きょうは、なんだか変だ。
患者たちの呻き声や叫び声が聞こえてこない。
すすり泣く声さえ聞こえてこなかった。
隣室の扉を開けてみた。
ここもまた
[次のページ]
戻る 編 削 Point(9)