絵本 (旧作)/石村
 


つめたい万華鏡のまばたきが
角笛吹きの感傷を揺らし
梢のうへから、いやみな天使が
それを微笑つた。
琥珀いろの木洩れ陽と
昼下がりの回想が
共謀して、道化師を泣かせた。
腹立たしくて梢をみあげれば
千の天使が微笑つてゐる。

風のない、絵本のやうな午後の事。


     (一九九〇・二・十六)


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