狼狽/あらい
 

未だに上書きされないビデオレターを重ね合わせた。
ささやかな耳鳴りはとうに途絶えていたから、
走り去るばかりの想に陳ばる単純な夢を見る己が風を起こして映射する。
噂にもならない沙漠の欠片、生きとし生けるものを殺した。
象嵌の瞳で結ぶことが、終の模の器に過ぎない、いばらの真綿の、
蠱毒の偽薬を詰め込む、平行線に堕胎した数だけ。
未来への途は膿出している肋の羽根がまた抜け堕ちて、誰かを救い出すように。
難く尖った小指の爪で怨土に弾いた、つたない、星の砂は詩に讃え
数々の極死期を口走る。えばった鰓から たまゆらが生え変わる時期に、
ちょっとだけ栓を拔いた。甘くかぐわしい啼鳥の臍帯は揺らしい何処かへと縺れ、
とおく油膜と真珠の泡沫に、傅(かしず)き離れたところへ、
泥濘と灯され、立ち止まり 途切れていたようにおもえた。この先、
宵は薄闇にただ黙って生温く術(すべ)っては、
どうせ躓きながら螺旋階段を転がり織りてやはり絡まり逢うばかりだ。
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