孤独なポーン/ただのみきや
秋は遠い
肩にこうべをあずけて眠る
ひとりの女のように
一匹のトンボがくぐりぬける
それ以外なにもない
綿の花をあしらった
青くくすんだヴェールの下
静かな死者の息づかい
遠く耳元で
そうして今
瑞々しい喪失
つめたく溶けだした暖色にひとみを浸し
迷える四肢は抜けおちる
スライスされてゆく
球形の時間
夜と昼の抱合と
ゆらめく孤独の国境線
秋は遠い
鍵盤深く沈んでいった
輝く胎児のように
床いっぱいにこぼれた悲哀から
見慣れない背中が隆起する
擬愛と名付けられた保護犬が
股の間をすりぬける
ああ血の止まらない声の行方
彼方に根付いた青い鼓動
(2023年9月30日)
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