夜の通りとはちみつレモン/番田 
 
夜の通り道を歩きながら、僕は昔の景色を見ているのだ。もうすでに戻れない時間を、感じている。もうすでに、でも、知っているものとして。そして、子供の頃の何もかもが新しく見えた景色を見ていた。今は、感じている、何も感じていない空や川、店や通りを、そうであるようにして。いつもの橋にまで来ると、魚が跳ねている音が聞こえた。見慣れたマンションが目の前にそびえていた。何を、しかし僕は知っていたのだろうか。このようにして歩いていることで。不確かな感覚の迷路の中をさまよっている気分だった。そこにいることが、物事を確かにしていく。そう、思っていた。ここではなく、壁に囲われた空間の中に身を置きつづけることが。工場から帰
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