メモ1/由比良 倖
 
けれどまた、時には日本語を非常に美しく感じることがある。

 自分ひとりの世界に入れるって素敵だ。冷たい泉で神経が満ち足りているよう。

 思い出だけが残ればいい。すごく小さく小さく荷物を纏めて、僕の生きてきた形跡を始末して、そして僕も消えたいと思う。消えることイコール死ぬことではなくて、例えば人は言葉の中にも消えることが出来るし、音楽の中にも消えていける。

 辛い気分のときは、世界全体がよそよそしく感じられる。冷たくて、空気が硬くて、そして遠い。人間味のまるで無い世界。秋になっても春になっても、風の匂いに変化を感じない。肌を包む空気には温度が無い。僕に感じられるのは、錆びたギターの
[次のページ]
戻る   Point(3)