海のゼリー/本田憲嵩
 
冷蔵庫が、さびしい。夜の代理をして、老いの歌を奏でている。かんのんびらきのドアーをひらけば、つめたい晩秋の風にサツマイモさえも干からびかけていて、もうとっくにその賞味期限は過ぎ去ってしまっている、おもいでが凝固された夏季限定の青いゼリーを、透明なガラスの小鉢のうえにひっくりかえす、ふるくて、あざやかな青い海となつかしいラムネのかおりがする、
微笑んで、しろい手をふっている、


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