ひとりきりの王国/由比良 倖
 
僕はここにいて、
ここにしかいない。

暗い部屋の中。
スピーカーから流れ出す、
ニック・ドレイクの歌の中。

僕はここにいて、
ここにしかいない。



街外れの港には、油のにおいが染みていた。
電柱の影は銀色で、送電線が光っていた。

夕暮れに、船はぎしぎし鳴っていた。
僕は自転車から降りて、
堤防でしばらくぼんやりしていた。

僕の心も送電線のように光っていた。
僕は地球の裏側にいた。

秋を目前にしたアスファルトは、水色のジョウロの匂いがした。



近所の、人の声さえ懐かしい
秋の朝には、白菜みたいな色がある



淡い
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