ブラッシュアップ症候群/ホロウ・シカエルボク
 

充血した眼球は茶褐色の世界を眺めていた、時計は高速で逆回転を続けそのくせ何ひとつ巻き戻されてはいなかった、四肢の長過ぎるアビシニアンが毛玉対策を施した餌を欲しがってはガラスのように鳴き続けていた、毛細血管の悲鳴が一斉に聞こえ過ぎて交響楽団のようで、洗い桶に伏せられたマグカップからは新鮮な血液が滴っていた、カーテンは太陽光に焼かれてティッシュペーパーのように燃え落ちる、電気ポットの熱湯をぶちまけて消火すると消炭と歪な布だけが残った、太陽を眺めたくなかったので窓はベニヤ板で隠した、三十度越えの九月が脳味噌を綿菓子にしてしまう、なにひとつ面白くないジャック・ルーシェのピアノ、気が付けば一日中聴き続け
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