飼い主のない猫 (散文詩 7)/AB(なかほど)
 
、忘れていたような景色を思い出
すとき。いや、景色なんてきれいなものでも
なんでもない、なんてのは今さらで。

 犬に小便かけられた。電車降り際に横のサ
ラリーマンに吐き逃げされた。間の悪い田舎
の親からの電話。新小岩のビリヤード場、と
りとめのないポケットと、やるせない気持ち
と、マイクロバスに乗り込んでゆく国際色と、
それから、ビデオばかりの眠りたいだけの夜、
君だけの夜、君さえも要らない夜。


 あの夜もこんなふうに帰り道でもない道を
通ってアパートに辿り着くと、飼い主のない
猫に好かれて。君の声も、君の顔も思い出せ
ないのに、君の匂いなんて思い出したはずも
ない、あの夜に似ている。



  
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