傷のこと/こしごえ
蜩(ひぐらし)の かなかなかなかなかなかなかなかな……と歌う歌声が
空へ心地好くひびく
一人 林の陰に立ち 傷を思う
傷の増えた この銀製の指輪は
あの人が亡くなった頃に求めたものです
この銀の指輪の傷は
あの人の声ではなかろうか
ある時の私は、
誰かの心を傷つけてしまう時もある。
あなたの心に傷をつけたその時は ごめんなさい。しかし
あなたは「私はそんなに弱くない」と言うでしょうか。
誰かの心を私が傷つければ私自身も傷つく。
けれど
心の秘密の宝は自分以外の誰にも傷つけられません。
この心の秘密の宝は秘密だから
秘密の宝を見ることも、
秘密の宝に触ることも
[次のページ]
戻る 編 削 Point(5)