陽の埋葬/田中宏輔
ぽろと、ぽろぽろ
と、砕け落ちてゆきました。
陽の水子が喘いでゐる(偽りの堕胎!)
隠坊(おんばう)が坩堝の中を覗き見た。
──陽にあたると、死んでしまひました。
言ひそびれた言葉がある。
口にすることなく、この胸にしまひ込んだ言葉がある。
何だつたんだらう、忘れてしまつた、わからない、
……何といふ言葉だつたんだらう。
すつかり忘れてしまつた、
つた。
死んだ鳥も歌ふことができる。
空は喪に服して濃紺色にかち染まつてゐた。
煉瓦積みが煉瓦を積んでゆく。
破(や)れ鐘の錆も露な死の地金、虚ろな高窓、透き見ゆる空。
わたしは、わたしの、死んだ声を、聴いて、ゐた。
水甕を象どりながら、口遊んでゐた。
擬死、仮死、擬死、仮死と、しだいに蚕食されてゆく脳組織が
鸚鵡返しに、おまえのことを想ひ出してゐた。
塵泥(ちりひぢ)の凝り、纏足(てんそく)の侏儒。
隠坊が骨学の本を繙きながら
坩堝の中の骨灰をならしてゐました。
灰ならしならしながら、微睡んでゐました。
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