風景の終わりに/たもつ
 


冷蔵庫が音もなく
坂道を転がっていく
薬屋の坊やがその様子を見て
花の名前を口ずさむと
雲ひとつない青空は
木々の亡骸を歌う
むかし此処いらに
小さな書店があったことなど
思い出す人もいなくなった

電信会社の作業員の汗が
舗装に落ちて蒸発する
循環しまた誰かの汗になる
昼寝をする微かないびきは
飛行船の浮力
午後の話をしながら
次の夢を目指して消えていく

終わりのない坂道を
どこまでも
冷蔵庫は転がり続ける
風景の終わりに
小さな夕暮れがある




(初出 R5.9.9 日本WEB詩人会)

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